変わりゆく価値観に戸惑う前に知っておきたい真実
「出世なんてしたくない」「責任を負いたくない」―。
そんな言葉を若手社員から聞いて、驚いたことはありませんか?
実は今、職場で起きているこの現象は、決して一時的なものではありません。
一般社団法人日本経営協会の最新調査データ(2024年)が示すのは、若手社員の58.4%が「昇進・昇任したくない」と回答し、この数値は前回調査より15.8ポイントも増加している衝撃的な事実です。
さらに驚くべきことに、東晶貿易株式会社の調査(2022年)では20代の77%が出世欲を持たないという結果もあり、これはもはや「最近の若者は…」という一言で片付けられる問題ではないことを物語っています。
でも、彼らを責める前に、ちょっと立ち止まって考えてみませんか? 実は、この現象の背景には、私たちが見落としがちな深い理由と、新しい時代の働き方への価値観の変化があるのです。
この記事では、なぜ今の若者が昇進を望まないのか、その本当の理由を5つの視点から解き明かし、企業と個人双方にとって建設的な解決策をご提案します。世代間のギャップに悩む管理職の方、自分自身のキャリアに迷いを感じている若手の方、そして人事担当者の皆さんに、きっと新しい気づきをお届けできるはずです。
※本記事で使用している統計データは、日本経営協会、東晶貿易株式会社、マイナビキャリアリサーチLab等の公開調査結果に基づいています。
昇進を避ける若者の5つの本音 ―データが語る現実―
1. 重すぎる責任への恐れ
東晶貿易株式会社の調査によると、出世したくない理由の第1位は「責任のある仕事をしたくないから」となっており、現代の若者は管理職に伴う責任の重さに大きな不安を感じています。
これは決して「楽をしたい」という怠惰な気持ちからではありません。マイナビキャリアリサーチLabの調査では、親が管理職になってから非常に大変そうにしている姿を見たり、給料が少ない上に雑務が多くスキルアップも見込めないと管理職の親から教わったりした経験から、現実的な判断をしているという分析が示されています。
Aさん(26歳・IT企業勤務)の場合
「父が課長になった途端、家にいる時間がほとんどなくなって、休日も仕事の電話に追われている姿を見てきました。給料は確かに上がったけれど、時給換算したら以前より下がっているんじゃないかって。そんな働き方をするくらいなら、今のままで充分です」
2. ワークライフバランスへの強いこだわり
日本経営協会の調査では、「私生活重視」の合計比率は44.4%であるのに対し、「仕事重視」の合計比率は18.4%という結果が出ており、現代の若者が明確にプライベートを重視する傾向にあることが分かります。
同調査で昇進しない理由として「自由な時間を多く持つこと」が54.6%で最多となり、次いで「周囲を気にせずにマイペースで働くこと」が35.8%という結果からも、彼らが求めているのは昇進による地位向上ではなく、自分らしい時間の使い方なのです。
3. デジタル世代が感じる職場環境への失望
日本経営協会の同調査で、入社後に遅れていると感じたものとして「職場のデジタル化」が36.4%で最多となり、次いで「働く場所の柔軟性(テレワークなど)」が19.2%という結果が、興味深い事実を教えてくれます。
生まれたときからインターネット環境が整っている、デジタルネイティブ世代である彼らにとって、アナログで非効率な業務プロセスや、硬直的な働き方は大きなストレス要因となっているのです。
4. 終身雇用神話の終焉への適応
日本経営協会の調査では、「定年まで」働きたいと考える人は10.2ポイント減少し、「次の就職先が見つかるまで」が27.0%で最も多いという結果が出ており、彼らが従来の終身雇用制度に期待していないことを示しています。
リコーの調査分析によると、出世意欲がある人でも、終身雇用に期待しておらず帰属意識が低めで、同じ会社に長く勤めて出世を目指す意識が低い傾向にあり、キャリアアップのためにあっさりと転職することがあるとされています。
Bさん(24歳・メーカー勤務)の場合
「正直、この会社に一生いるとは思っていません。だったら管理職になって縛られるより、転職に有利なスキルを身につけたいです。昇進って結局その会社でしか通用しない肩書きじゃないですか」
5. 成長と昇進の価値観のズレ
PRESIDENT WOMAN Onlineでの専門家分析によると、Z世代の特徴は、出世欲はないが成長したいという欲求が強いことであり、これが従来の価値観との最も大きな違いを表しています。
彼らにとって成長とは、管理職になることではなく、株式会社ノーザンライツの調査分析では、さまざまな仕事に手を出すより、専門性を磨きたいという意識が強いとされています。つまり、縦の昇進よりも横の専門性拡大を重視する傾向があります。
企業側が抱える「管理職疲れ」の実態

現役管理職世代の本音
実は、若者の昇進忌避は彼らだけの問題ではありません。
マイナビキャリアリサーチLabの分析では、現役世代の管理職離れ、あるいは「管理職疲れ」を見た下の世代が「こんな働き方はしたくない」と感じた結果として、Z世代において管理職離れが起こっているという見解が示されています。
管理職が直面している現実的な問題
- 過度な業務負担と責任
- 部下のマネジメントと上司への報告の板挟み
- 残業代のつかない長時間労働
- デジタル化の遅れによる非効率な業務プロセス
- パワハラ・セクハラリスクへの過度な神経質さ
組織構造の歪みが生む悪循環
現在の多くの企業では、管理職のポストが限られているため、優秀な人材でも昇進の機会が少ないという構造的な問題があります。
その結果、管理職に就いた人への負担が集中し、管理職にモチベーションを感じている人には管理職離れの原因だと考えられるネガティブなイメージを払拭するべく現役管理職世代の負担を軽減させていくことが急務となっています。
世代間ギャップを超える3つの解決策
1. 多様なキャリアパスの創設
マイナビキャリアリサーチLabの提案では、管理職を希望しない人には管理職にならずともキャリアアップを目指せるようなキャリアパス(社内公募制度やリスキリング支援、昇り降り自由なキャリアを実現する人事制度)を提示することが重要とされています。
具体的な施策例
- スペシャリスト職の設置
- プロジェクトリーダー制度
- 技術専門職への昇格ルート
- 社内起業制度
- 副業・複業の推進
2. 働き方改革の本格的推進
日本経営協会の調査では、テレワーク制度は前回の7位から大きく上がって2位になるなど、柔軟な働き方への需要は確実に高まっていることが明らかになっています。
若者が求める働き方改革
- 真のフレックスタイム制度
- リモートワークの常態化
- 成果主義の徹底
- 無駄な会議・資料作成の廃止
- デジタルツールの積極活用
3. 新しいマネジメントスタイルの確立
日本経営協会の調査によると、若手社員・職員が理想とする上司について「親しみやすく話をよく聞いてくれる」が44.5%で最も多く、「人間として尊敬できる」が37.2%という結果から、従来の権威的なリーダーシップではなく、サーバント型リーダーシップが求められていることが分かります。
Cさん(28歳・金融業界)の場合
「前の上司は『俺についてこい』タイプでしたが、今の上司は私たちの意見をしっかり聞いて、一緒に考えてくれます。こういう人になら部下としてついていきたいし、将来こんな上司になれるなら管理職も悪くないかもって思えます」
個人ができる「新時代のキャリア設計」
昇進以外の成長指標を見つける
マイナビキャリアリサーチLabの分析によると、若い世代にとっては「キャリアアップ=管理職になる・出世する」ということではないことを理解し、自分なりの成長指標を設定することが大切です。
新しいキャリア指標の例
- 専門資格の取得
- 業界での評価・認知度
- ネットワークの構築
- 社外での活動実績
- 個人ブランドの確立
スキルの多様化と深化
日本経営協会の調査で、自信がない項目として「創造力」「発信力」「語学力」が挙げられているという結果を参考に、これらの分野を重点的に伸ばすことで、昇進に頼らないキャリア形成が可能になります。
ネットワーク構築の重要性
HR NOTEの専門家分析によると、Z世代はオンライン上でいつでもどこでも求人情報にアクセスすることができる環境を活用し、社内外でのネットワーク構築に力を入れることが重要とされています。
建設的な未来に向けて ―まとめと行動提案―
昇進を望まない若者の増加は、決してネガティブな現象ではありません。むしろ、従来の硬直的な組織構造や働き方を見直すチャンスとして捉えることができます。
企業に求められる変革
- 多様なキャリアパスの整備
- 真の働き方改革の推進
- 管理職の負担軽減
- デジタル化の促進
- 世代間コミュニケーションの向上
個人ができること
- 自分なりの成長指標の設定
- 専門性の向上
- ネットワークの構築
- 継続的な学習習慣
- 世代を超えた対話
働き方や人材の多様化が進むなか、キャリアアップのイメージが多様化しています。
マイナビキャリアリサーチLabの分析では、管理職になりたい・なりたくないに関わらず、キャリアアップを目指す次世代の働き手が社会で活躍していくためには、キャリアアップの仕方自体にも多様性が求められているとされています。
大切なのは、互いの価値観を否定することではなく、新しい時代に適応した働き方を一緒に模索することです。
昇進したくない若者も、昇進を望む人も、それぞれが輝ける場所がある―そんな社会を創っていけるよう、まずは身近なところから対話を始めてみませんか?
世代間のギャップは確かに存在しますが、それを乗り越えた先には、きっとみんなが幸せに働ける新しい職場の形が待っているはずです。
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