「何度注意しても、部下が変わらない…」 「フィードバックしたら、逆にやる気を失われてしまった…」
管理職やリーダーなら、誰もが一度は経験する悩みではないでしょうか。
実は、フィードバックには「伝え方」によって、部下を成長させることも、やる気を奪うこともできる、大きな力があるんです。同じ内容でも、伝え方ひとつで受け取られ方は180度変わります。
組織心理学の研究では、効果的なフィードバックには明確な法則があることが分かっています。そして、その法則に従えば、部下は自ら考え、自発的に行動を変えていくんですね。
この記事では、科学的根拠に基づいた「部下が自然と動き出すフィードバック術」をご紹介します。叱るでも褒めるでもない、本当に効果的なコミュニケーション方法を、具体的な事例とともにお伝えしていきます。
部下との関係がもっと良くなり、チーム全体の成果も上がる。そんな理想の状態を、一緒に目指していきましょう。
フィードバックとは?なぜ多くのリーダーが失敗するのか

フィードバックとは、相手の行動や成果に対して情報を返すこと。本来は部下の成長を促すための貴重なコミュニケーション手段です。
ところが、多くの職場で「フィードバック=ダメ出し」になってしまっているんですね。
よくある失敗パターン
感情的に叱ってしまう 「なんでこんなミスするの!」という言い方では、部下は萎縮するだけ。改善のヒントは得られません。
抽象的すぎる指摘 「もっと頑張って」「クオリティを上げて」と言われても、具体的に何をすればいいか分からないですよね。
褒めすぎて逆効果 「すごい!完璧!」と褒めるだけでは、次にどう成長すればいいか分からず、かえってプレッシャーになることも。
タイミングが悪い ミスから何日も経ってから指摘されても、状況を思い出せないし、改善のチャンスを逃してしまいます。
スタンフォード大学の研究によると、効果的なフィードバックを受けた社員は、そうでない社員に比べて生産性が39%も高いという結果が出ています。
つまり、フィードバックの質が、チームの成果を大きく左右するということ。
では、どうすれば部下が自然と動き出すフィードバックができるのでしょうか?
【基本原則】フィードバックの黄金ルール3つ
具体的なテクニックの前に、まず押さえておきたい3つの基本原則があります。
原則1: 人格ではなく行動にフォーカスする
「あなたは注意力がない」ではなく「今回の資料に数字の誤りが3箇所ありました」。
人格を否定されると、人は防衛的になります。でも、行動を指摘されれば、改善の余地があると感じられるんです。
心理学では「成長マインドセット理論」として知られています。能力は固定されたものではなく、努力で変えられると信じさせることが、成長の第一歩なんですね。
原則2: フィードバックは「贈り物」という意識を持つ
フィードバックは、相手の成長を願う気持ちから生まれるもの。批判や評価ではなく、「あなたをもっと良くしたい」という善意の表れです。
この気持ちが伝わると、部下は素直に受け取れるようになります。逆に、「マウントを取りたい」「自分の正しさを証明したい」という動機だと、相手に見透かされてしまうんです。
原則3: タイミングと頻度を意識する
最も効果的なのは、行動の直後。記憶が鮮明なうちにフィードバックすることで、具体的な改善につながります。
また、ネガティブなフィードバック1回に対して、ポジティブなフィードバックを3〜5回。この比率が、最も部下のモチベーションを高めることが研究で分かっています。
この3つの原則を心に刻んで、具体的なテクニックを見ていきましょう。
【テクニック1】SBI法で具体的に伝える
SBI法は、フィードバックの最も基本的かつ効果的なフレームワークです。
S (Situation): 状況 B (Behavior): 行動 I (Impact): 影響
この3つの要素を順番に伝えることで、相手は何が問題だったのか、なぜ改善が必要なのかを理解できます。
実践例:ネガティブなフィードバックの場合
悪い例 「プレゼンが分かりにくかった。もっと準備して」
良い例(SBI法)
- S(状況):「昨日の顧客向けプレゼンで」
- B(行動):「専門用語が多く、図解が少なかったため」
- I(影響):「お客様から『もう少し分かりやすく説明してほしい』という反応がありました」
この後に続けて、「次回は、専門用語を言い換えたり、図解を増やしたりすると、もっと伝わると思います。どう思いますか?」
営業マネージャーのAさんは、この方法を取り入れてから部下の改善スピードが劇的に上がったそうです。「以前は『なんとなくダメ』としか伝えられず、部下も困っていた。SBI法なら、お互いに納得できる」とのこと。
実践例:ポジティブなフィードバックの場合
ポジティブなフィードバックにもSBI法は有効です。
良い例
- S(状況):「今朝のチームミーティングで」
- B(行動):「あなたが新しいアイデアを提案してくれたことで」
- I(影響):「メンバー全員が刺激を受けて、活発な議論になりました。プロジェクトの方向性も明確になりましたね」
「ありがとう」だけより、具体的に何が良かったか伝えることで、部下は「この行動は正しかったんだ」と確信できます。
【テクニック2】サンドイッチ法より効果的な「ラップ法」
「サンドイッチ法」を聞いたことがありますか?
「良い点→改善点→良い点」の順で伝える方法ですが、実は最近の研究では、この方法には問題があることが分かってきたんです。
サンドイッチ法の問題点
部下は「でも」「しかし」を待つようになり、褒め言葉を素直に受け取れなくなる。本当に伝えたい改善点が薄まってしまう。パターン化すると「またお決まりのやつだ」と思われてしまう。
そこで、より効果的な「ラップ法(WRAP法)」をご紹介します。
WRAP法の4ステップ
W (What): 何が起きたか 事実を客観的に伝える。 「今回の報告書の提出が、締め切りより2日遅れました」
R (Result): どんな結果になったか その行動がもたらした影響を伝える。 「そのため、上司への報告スケジュールを変更する必要が生じました」
A (Alternative): 代わりにどうすれば良かったか 具体的な改善案を一緒に考える。 「もし途中で遅れそうだと分かった時点で相談してくれていたら、どうでしたか?」
P (Positive expectation): ポジティブな期待 未来志向で締めくくる。 「あなたの分析力は素晴らしいので、次回は早めの相談も組み合わせれば、さらに良い成果になると思います」
プロジェクトマネージャーのBさんは、WRAP法に切り替えてから、部下が同じミスを繰り返す頻度が70%減ったそうです。「未来志向で終わるから、部下が前向きに受け取ってくれる」とのこと。
【テクニック3】コーチング型フィードバックで自発性を引き出す
最も効果的なフィードバックは、実は「答えを教えない」方法なんです。
これを「コーチング型フィードバック」と言います。
質問で導く5つのステップ
ステップ1: 自己評価を聞く 「今回のプロジェクト、自分ではどう思う?」
まず本人に振り返らせることで、自己認識力が高まります。多くの場合、部下は自分の課題に気づいているんです。
ステップ2: 良かった点を見つけさせる 「特にうまくいったと思う部分は?」
ポジティブな側面から始めることで、心理的安全性が生まれます。
ステップ3: 改善点を引き出す 「もし次にやるなら、どこを変えたい?」
自分で気づいた改善点は、他人から指摘されるより何倍も強く心に残ります。
ステップ4: 具体的な行動を決めさせる 「じゃあ、次回は具体的にどうする?」
「次は頑張る」ではなく、「毎朝15分、準備時間を確保する」など、行動レベルに落とし込みます。
ステップ5: サポートを申し出る 「私にできることはある?一緒に考えようか?」
一方的な指示ではなく、伴走者としてのスタンスを示します。
チームリーダーのCさんは、このアプローチで部下の主体性が大きく向上したそうです。「以前は指示待ちだったメンバーが、自分から『こうしたいんですが』と提案してくるようになった」とのこと。
コーチング型が効果的な理由
心理学の「自己決定理論」によると、人は自分で決めたことには強くコミットします。
上司から「こうしろ」と言われると、やらされている感覚になる。でも、自分で「こうします」と決めると、それは自分の意志になるんです。
この違いが、行動の継続性を大きく左右します。
【テクニック4】成長型フィードバックで可能性を信じる

心理学者キャロル・ドゥエック博士の「マインドセット理論」は、フィードバックの世界に革命をもたらしました。
固定型マインドセット vs 成長型マインドセット
固定型の言葉 「君は営業の才能がないね」 「向いてないんじゃない?」 「元々そういう性格だから」
これらの言葉は、「能力は変わらない」というメッセージを送ってしまいます。
成長型の言葉 「今回のアプローチは効果が薄かったね。別の方法を試してみよう」 「まだこのスキルは発展途上だから、練習すれば必ず上達するよ」 「この経験から学んだことを、次に活かせるね」
こちらは、「努力で成長できる」というメッセージです。
「まだ」という魔法の言葉
「できない」を「まだできない」に変えるだけで、可能性が開けます。
- ❌「プレゼンが下手だね」
- ⭕「プレゼンスキルは、まだ発展途上だね」
この小さな違いが、部下の脳に「成長の余地がある」というシグナルを送るんです。
人事担当のDさんは、新入社員研修でこの言葉を徹底的に使うそうです。「『まだ』という言葉があるだけで、新人の表情が明るくなる。失敗を恐れずチャレンジする文化が生まれた」とのこと。
努力とプロセスを褒める
結果だけでなく、取り組み方を評価することも大切です。
- ❌「売上達成おめでとう!君は才能があるね」
- ⭕「売上達成おめでとう!顧客分析を丁寧にして、アプローチを工夫した成果だね」
「才能」ではなく「努力」「工夫」「戦略」を褒めることで、部下は「この方法を続けよう」と学習します。
【テクニック5】心理的安全性を作るフィードバック環境
Googleの研究チーム「プロジェクト・アリストテレス」が発見した、最高のチームの条件。それが「心理的安全性」でした。
心理的安全性とは、「失敗しても大丈夫」「意見を言っても拒絶されない」という安心感のこと。
心理的安全性を高める5つの行動
1. 自分の失敗を先に話す 「実は私も昔、同じようなミスをしてね…」
リーダーが弱さを見せることで、部下も失敗を報告しやすくなります。
2. 「ありがとう」を口癖にする 失敗の報告を受けたとき、まず「早く言ってくれてありがとう」と伝える。
報告を歓迎する姿勢を示すことで、隠蔽を防げます。
3. 好奇心を持って聞く 「なぜそう判断したの?」を批判ではなく、純粋な興味として尋ねる。
部下の思考プロセスを理解しようとする姿勢が、信頼を生みます。
4. 一対一の時間を大切にする 定期的な1on1ミーティングで、じっくり話せる環境を作る。
人前では言いにくいことも、一対一なら話せることがあります。
5. フィードバックのフィードバックを求める 「今の伝え方、分かりやすかった?改善点あれば教えて」
上司も成長する姿勢を見せることで、相互成長の文化が生まれます。
エンジニアリングマネージャーのEさんは、心理的安全性を意識してから、チームの生産性が50%向上したそうです。「メンバーが早い段階で相談してくれるようになり、大きな問題になる前に対処できるようになった」とのこと。
【シーン別】効果的なフィードバック実例集
理論は分かったけど、実際の場面でどう使えばいいの?
具体的なシーン別に、フィードバックの実例を見ていきましょう。
シーン1: 締め切りに遅れた部下へ
❌ダメな例 「また遅れたの?時間管理ができてないよね」
⭕良い例(WRAP法) 「今週の報告書、締め切りより1日遅れましたね(What)。そのため、次の工程の開始が遅れてしまいました(Result)。もし途中で遅れそうだと気づいた時点で相談してくれていたら、一緒に優先順位を調整できたかもしれません(Alternative)。あなたの分析力は高いので、次回は進捗管理の工夫も加えれば、さらに信頼されると思います(Positive)」
シーン2: プレゼンがうまくいかなかった部下へ
❌ダメな例 「プレゼン下手だね。もっと練習しないと」
⭕良い例(コーチング型) 「今回のプレゼン、自分ではどう感じた?」→「確かに内容は良かったね。もし次にやるなら、どこを変えたい?」→「声のトーンか。いいポイントだね。具体的にどう練習する?」→「リハーサル、私が聞き手になろうか?」
シーン3: 素晴らしい成果を出した部下へ
❌ダメな例 「すごいね!天才だ!」
⭕良い例(成長型) 「今回のプロジェクト成功おめでとう(What)!特に、事前の市場調査を3パターン実施して、それをもとに戦略を組み立てた点が素晴らしかった(Behavior)。その丁寧なプロセスが、この結果につながったんだね(Impact)。この分析力を次のプロジェクトでも発揮してほしいな」
シーン4: 挑戦して失敗した部下へ
❌ダメな例 「だから言ったでしょ。慎重にやらないと」
⭕良い例(成長型+心理的安全性) 「新しいアプローチに挑戦してくれてありがとう。今回はうまくいかなかったけど、この経験から何を学んだ?」→「そうだね、その学びは次に絶対活きる。挑戦する姿勢そのものが素晴らしいよ。次はどうしたい?」
シーン5: 意見を言わない部下へ
❌ダメな例 「もっと積極的に意見を言ってよ」
⭕良い例(心理的安全性) 「〇〇さんは、いつもじっくり考えてから話すタイプだよね。今回のテーマについて、どんな視点を持ってる?正解とか気にせず、率直な意見を聞かせてほしいな。私が気づいてない視点があると思うから」
フィードバックで絶対にやってはいけない5つのNG
効果的な方法を知ったところで、逆に「これをやったらアウト」というNG行動も押さえておきましょう。
NG1: 人前で叱る、恥をかかせる
たとえ内容が正しくても、人前での叱責は相手の尊厳を傷つけます。
「褒めるのは人前で、叱るのは個別で」
この鉄則を忘れずに。
NG2: 感情的になる、怒鳴る
怒りに任せた言葉は、相手の心に届きません。むしろ、恐怖と反発を生むだけ。
もし怒りを感じたら、深呼吸して6秒待つ。この間に、前頭葉が働いて冷静になれます。
NG3: 過去の失敗を何度も蒸し返す
「前もこうだったよね」「またか」という言葉は、改善の意欲を奪います。
フィードバックは、今回の行動だけにフォーカス。過去は過去、今は今です。
NG4: 他人と比較する
「〇〇さんはできてるのに」という比較は、劣等感しか生みません。
比較するなら、「以前のあなた」と「今のあなた」。成長の軌跡を見せてあげましょう。
NG5: 一方的に話して終わる
フィードバックは対話です。相手の言い分を聞かず、命令だけして去るのは最悪。
必ず相手の反応を確認し、理解できたか、どう思ったか聞きましょう。
部下のタイプ別・フィードバックの使い分け
人はそれぞれ個性があります。同じフィードバックでも、受け取り方は人それぞれ。
部下のタイプに合わせて、アプローチを調整しましょう。
完璧主義タイプ
特徴: 自分に厳しく、失敗を恐れる。過度に落ち込みやすい。
効果的なアプローチ 小さな進歩を具体的に認める。「完璧じゃなくても大丈夫」というメッセージを送る。プロセスを評価し、学びを強調する。
フィードバック例 「完璧を目指す姿勢は素晴らしいけど、80%の完成度で一度見せてもらう方が、お互い効率的だと思うよ。その方が修正も早くできるしね」
自信がないタイプ
特徴: 自己評価が低く、挑戦を避けがち。褒められても素直に受け取れない。
効果的なアプローチ 小さな成功体験を積ませる。具体的な行動を褒め、自信の根拠を与える。「できる」という前提で接する。
フィードバック例 「先週、〇〇を自分で調べて解決したよね。あれ、すごく良かったよ。その問題解決力があれば、今回のプロジェクトも絶対できる」
自己主張が強いタイプ
特徴: 自分の意見が正しいと信じている。指摘を受け入れにくい。
効果的なアプローチ まず意見を聞き、尊重する。事実とデータで示す。質問形式で気づかせる。
フィードバック例 「あなたの戦略は理にかなってるね。ただ一点、顧客データを見ると別のパターンも見えるんだけど、どう思う?」
マイペースタイプ
特徴: 自分のリズムを大切にする。急かされると機能しない。
効果的なアプローチ 十分な時間を与える。期限の理由を説明し、理解を促す。段階的な目標設定をする。
フィードバック例 「あなたのじっくり考える姿勢は強みだね。今回のプロジェクトは〇日が期限なんだけど、逆算すると〇日までに第一段階を終えたい。このペースで大丈夫かな?」
フィードバック力を高める3つの習慣
最後に、あなた自身のフィードバックスキルを磨くための習慣をご紹介します。
習慣1: 毎日1回、ポジティブフィードバックをする
意識的に、部下の良い行動を見つけて伝える習慣をつけましょう。
「今日の議事録、要点がまとまっていて分かりやすかったよ」 「さっきの提案、視点が面白かったね」
小さなことでOK。毎日続けることで、あなたの観察力も高まります。
習慣2: フィードバック後に振り返る
フィードバックした後、「うまく伝わったか?」「もっと良い言い方があったか?」と自問自答する。
メモに残しておくと、自分のパターンや改善点が見えてきます。
習慣3: 定期的に部下からフィードバックをもらう
「私のフィードバック、受け取りやすい?改善点があれば教えて」
この謙虚さが、相互成長の文化を作ります。
まとめ:フィードバックは、最高の贈り物
部下が自然と動き出すフィードバック。その秘訣は、実はとてもシンプルです。
相手の成長を心から願い、具体的に伝え、可能性を信じる。
ただそれだけなんです。
今日から実践できる3つのアクション
- 今日、部下の良い行動を一つ見つけて、SBI法で具体的に伝える
- 次のフィードバックで、「もし次にやるなら、どうする?」と質問してみる
- 「まだ」という言葉を意識的に使ってみる
フィードバックは、スキルです。才能ではありません。
練習すれば、誰でも上達します。
そして、あなたのフィードバックが変われば、部下の行動が変わります。部下の行動が変われば、チームの成果が変わります。チームの成果が変われば、あなたのリーダーとしての自信も変わります。
すべては、今日のひと言から始まります。
この記事が、あなたと部下の関係をより良いものにするきっかけになれば、こんなに嬉しいことはありません。
さあ、今日から一緒に、部下が自然と動き出すフィードバックを実践していきましょう。
あなたには、必ずできます。まだ、その方法を知らなかっただけなんですから。

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